フューチャーベースとは

2010年代の初めにSoundCloudや音楽ブログの中から現れ、2016年には世界のヒットチャートの頂点に立った電子音楽。何がそう呼ばれ、誰がどう作り、日本でどう独自に育ったのか。資料に書いてある事だけを、出典つきでたどります。

ジャンル解説ラジオ
聴きながら読む話 16:52・合間に曲 6 本

話は 2 人の掛け合いの解説です。曲の紹介の直後に、その曲の公式動画をこのページが流し、終わると話に戻ります。章や曲の札を押すと、そこから聴けます。

解説は、集めた資料(記事・論文)を元に AI(NotebookLM)が作った音声です。資料に無い事を言っている所があれば、下の記事と出典を優先してください。曲の音はこのページには置かず、YouTube の公式動画をそのまま流します。

ラジオで流れる 6 曲曲は、集めた資料に名前が多く出た順。公式の動画がある物だけ

1. Rustie『Glass Swords』
2. Cashmere Cat『Mirror Maru』
3. Flume『Never Be Like You』
4. The Chainsmokers『Closer』
5. Snail's House『Kirara』
6. Mura Masa『Lovesick』

曲の選び方:資料に名前が多く出る順。好みで選ばず、資料の中で何本に名前が出たかで決めています。

この資料の読み方

「フューチャーベース」は、レコード会社や雑誌が決めた名前ではなく、2010年代に、インターネット上の作り手と聴き手の間で広まった呼び名です。だからこの資料は、定義から入らず、何から生まれ、誰がどう作り、どんな音の作り方で、日本でどう独自に育ったかの順にたどります。全部の文に出典の番号を付けました。音の良し悪しの判断は書いていません。

フューチャーベースとは温かいベースミュージック、という矛盾

0-1百科事典の定義

フューチャーベースは、2010年代に発展した電子ダンス音楽(EDM)の一つで、ダブステップとEDMトラップの要素を、より温かく、刺さらないリズムで混ぜた音楽です。1

百科事典は、先駆者としてRustie(ラスティ)、Hudson Mohawke(ハドソン・モホーク)、Lido、San Holo、Cashmere Cat(キャッシュミア・キャット)の名を挙げ、2010年代の半ばから後半にFlume(フルーム)、Martin Garrix、Illenium、Louis the Child、Mura Masa(ムラ・マサ)らが広めた、と整理しています。1 2016年が「ブレイクした年」と見なされています。1 文化的な発祥地は2010年代初めのオーストラリア、イギリス、アメリカで、楽器の欄にはDAW(音楽制作ソフト)、鍵盤、シンセサイザー、サンプラー、シーケンサー、ギターが並びます。1

ほかの解説も言い方はそろっています。「ダブステップやトラップの激しいベースと違い、温かさ、はね、音楽性に重きを置く」2、「ダブステップの攻めるドロップやトラップの休みない勢いと違い、感情の深さを強調する」3、「名前のとおりベースラインに焦点があり、明るく温かい音で、前向きで、くつろいだ空気と受け取られることが多い」4。日本語の解説は「EDMの中でもひときわキラキラしたサウンドとエモーショナルな展開」と書いています。5

0-2音の「材料」の一覧

シンセメーカーの解説は、このジャンルを「家系図で言えば、EDMが母、ダブステップが一番目のいとこ、トラップが二番目のいとこ」と表し、材料を箇条書きにしています。6

材料の一覧。シンセメーカーの箇条書きと百科事典の「特徴」の節をまとめたものです。6,1,4 どう作るかは第03章で一つずつ追います。

百科事典は特徴をこう書きます。音の波を、オートメーション(パラメータの自動操作)や低い周波数の発振器(LFO)でフィルターの開き具合や音量ごと動かし、「うねる(wobbly)」効果を作る。ドロップ前のビルドアップで「きらきら」と音程が上がっていくライザー、アルペジオの和音、ボーカルチョップ、ボコーダーもよく使う。拍子は4分の4で、テンポは130〜175BPM。1 日本語の制作記事はテンポを「70〜90未満程度」と書いていますが、これは同じ速さを半分で数えたもので、その理由は第03章で説明します。7

0-3近い音楽と、どこが違うか

トラップからドラムを、ダブステップから構成とベースの重さを借りて、攻めの歪みの代わりに豊かな和音を置いた、というのが資料に共通する整理です。5,3,1

2つの親との違い。日本語と英語の解説記事の整理を箱にしたものです。5,3

楽曲販売サイトの解説は、近い名前のジャンルとの違いも書いています。メロディック・ダブステップはダブステップのハーフタイムのドラムとサブベースを土台に、映画音楽のような和音を乗せ、ベースの重さと劇的な展開を強調する。フューチャーベースは明るく踊れる方向に寄る。2 名前の似たフューチャー・ハウスは、金属的なシンセと刻んだ声で、踊る場のための勢いを作る音楽で、内側に向くフューチャーベースとは別物だ、という説明です。2

「フューチャー」の意味

なぜ「未来」なのかは、資料の中で定まっていません。音楽ブログの書き手は「正直わからない」と書き、フューチャー・ビーツ、フューチャー・ハウス、フューチャー・トラップ、フューチャー・ファンクなど「フューチャー」の付くジャンルは、元のジャンルに型にはまらない作り方を持ち込んで境界を押し広げる、という共通点を挙げています。8 同じ記事は、2012年から2019年のSoundCloud上の作り手の増え方をまとめたデータの投稿も紹介しています。8

0-4年表で見る

地下の実験から、2013年のリミックス1本で表に出て、2016年にチャートの頂点へ。そして日本では独自の枝が育ちました。全体の流れはこの5つの箱です。

時代の区切りと主な出来事。9,1,10,11,6,12 区切りの年は資料の整理に合わせたもので、きっちり切れるものではありません。

生まれた背景ウォンキー、SoundCloud、そして1本のリミックス

1-1前史:ロサンゼルスとグラスゴーの「ウォンキー」

音楽史家ピエロ・スカルッフィは、フューチャーベースの根を2006年のロサンゼルスに始まる「ウォンキー」に置いています。9

ウォンキーとは、ダブステップとヒップホップを、不協和で少し踊りにくい形で融合させたスタイルです。9 その先駆けとして、Flying Lotus(フライング・ロータス)のアルバム『1983』(2006年)が挙げられます。9,4,3,13 この作品はローランドTR-808というドラムマシンを使い、ダブステップと、おだやかなチル・トラップの影響がはっきり出ていた、と解説は書いています。3,13 ロサンゼルスではNosaj Thing、Samiyam、WeDidIt集団のShlohmoらが、そのまわりで変化を作りました。9

もう一つの中心はスコットランドのグラスゴーです。Hudson Mohawkeのアルバム『Butter』(2009年)と、Rustieの EP『Sunburst』(2010年)がここで作られました。9 音楽ライセンス会社の解説は、Rustieの『Sunburst』と『Glass Swords』(2011年)が、今では「ジャンルの古典」と見なされていると書いています。4

1-2イギリスの「パープルサウンド」と、メロディを持ったダブステップ

百科事典は、2008年の終わりにブリストルで分かれ出た「パープルサウンド」を、ダブステップの一派として記録しています。14

パープルサウンドの作り手の多くは、ゲーム音楽を大きな影響源として挙げています。14 スカルッフィは、Joker(ジョーカー)の「Purple City」(2009年)を、ダブステップをよりメロディアスにした最初の例とし、続く「チルステップ」の動きとして、オーストラリアのFlumeのアルバム『Flume』(2012年)と、シアトルのODESZAの『Summer's Gone』(2012年)を挙げています。9 そしてノルウェーのCashmere Catの EP『Mirror Maru』(2012年)を、「おそらく最初の本当のフューチャーベースの録音」と位置づけました。9 ロサンゼルスのRL Grimeが始めた「チルトラップ」も、わきからの影響として挙げられています。9

前史から最初のヒットまで。音楽史家の年表と百科事典の記述を順に並べたものです。9,14,1

1-3場所はクラブではなく、SoundCloud

ダブステップはイギリスで、トラップはアメリカ南部で生まれたのに対し、フューチャーベースは「仮想の半球」、つまりSoundCloudやSpotifyの地下の作り手の間で生まれた、とシンセメーカーの解説は書いています。6

SoundCloudは2008年にベルリンで、Bandcampは同じ2008年にカリフォルニアで始まった、作り手向けの音声配信サービスです。15 メディア研究者のヘスモンダルフらの論文は、SoundCloudの画面や仕組みのいくつかが、意識的かどうかは別として、電子ダンス音楽とヒップホップの作り手と聴き手のふだんの習慣や価値観を反映していたため、それらのジャンルの人たちに受け入れられた、と分析しています。15 同じ論文は、SoundCloudが「下から上へ」の共有の場を作ろうとした一方で、ソーシャルメディアの「つながりの文化」とデータの収集に支えられている点で、その理想が二重に損なわれている、とも書いています。15

聴く側の入り口になったのは、音楽を集めて流すYouTubeのチャンネルでした。Trap Nationというチャンネルが早くからこの新しいジャンルを取り上げた、と解説にあります。4 音楽ブログの記事は、2012年から2019年にかけてSoundCloud上でフューチャーベース、EDM、トラップの作り手がどう増えたかをまとめたデータの投稿を紹介しています。8

1-4Flumeの道:ラジオの投稿欄から、1台のノートパソコンで

シドニー生まれのHarley Streten(Flume)は、オーストラリアの公共ラジオの投稿サイトに上げた曲が初めて放送され、2011年にレーベルの新人コンテストで2位になって契約しました。11

Triple J Unearthedに上げた「Possum」が最初のラジオ放送になり、Future Classicというオーストラリアのレーベルが運営するコンテストに「Sleepless」「Over You」「Paper Thin」を送って2位に入りました。11 レーベルの創業者で後に彼のマネージャーになるネイサン・マクレイが、この3曲を収めた最初のEP『Sleepless』の発売を手伝いました。11 名前はBon Iverの同名の曲から取ったものです。11 2012年11月9日に出た最初のアルバム『Flume』は15曲49分で、彼が初めて買ったノートパソコンで作られました。11

転機は2013年です。イギリスのデュオDisclosureの「You & Me」のリミックスが、「ジャンルを表に出した」「最初のヒット」として、百科事典、音楽史家、複数の解説に共通して挙げられています。1,9,16,3,13,4 楽曲販売サイトの解説は、このリミックスが「豊かなシンセの和音、サイドチェインで動くドロップ、感情のこもったボーカルチョップ」というジャンルの型を定めた、と書いています。16 シンセメーカーの解説は「スーパーソウ、間引いたドラム、音程を変えたボーカルチョップで、フューチャーベースの未来の調子を決めた」と表現しています。6

右は、そのリミックスの公式の動画です。音楽史家は、この後にODESZAの「Say My Name」(2014年)が続き、やがて作り手たちがダブステップとトラップの要素をもっと取り込んでウォンキーの根から離れ、「温かいダブステップとメロディアスなトラップの間の音楽」になった、と流れを整理しています。9

Disclosure - You & Me (Flume Remix) [Official Video]

人と代表曲資料で繰り返し名前が出る人と作品

2-1Rustie『Glass Swords』(2011年)

グラスゴー出身のRussell Whyte(Rustie)が、Warp Recordsから2011年10月10日にイギリスで出した最初のアルバム。「ジャンルの人気に火をつけた最初期の作品の一つ」と百科事典は書いています。10,1

制作と録音は2008年から2010年にかけて、グラスゴーの父の家と、ロンドンの自宅で行われました。10 本人は「2008年くらい」に、アルバムにするつもりもなく曲を作り始め、約100曲を作って最終的に14曲に絞ったと語っています。10 最後の半年は「全部をのり付けしてアルバムとして意味が通るようにする」作業で、曲にイントロやモチーフを足しました。10 歌は本人と、ロンドンの作り手Nightwaveが担当しています。10 もっと「変で、環境音楽的な」曲も入れたかったが、レーベルが望まなかった、とも述べています。10

批評はこの作品を一つのジャンルに分類できず、「ヒップホップ?ポスト・ダブステップ?トロピカル・ハウス?SFトランス?」と書き、「1曲4分の中に5つも6つもの影響を詰め込んでいる」と評しました。10 イギリスの新聞ガーディアンは2011年の年間ベストアルバムの9位に選び、「抑えのない、皮肉のない、手を上げる喜びの音」と書き、同紙の初アルバム賞も贈りました。10 2012年のスコットランド・アルバム・オブ・ザ・イヤーの最終候補にも入りました。10 ラジオで流すのは表題曲の「Glass Swords」です。

Rustie『Glass Swords』(公式の音源(アルバムの表題曲))

2-2Cashmere Cat「Mirror Maru」(2012年)

ノルウェーのMagnus August Høiberg(Cashmere Cat)の2012年のデビュー作。音楽史家は「おそらく最初の本当のフューチャーベースの録音」と位置づけています。9

Høibergは2009年まで、DJの世界大会DMCにノルウェー代表の決勝進出者として出ていたターンテーブル奏者でした。17 Lana Del Reyや2 Chainzの曲の型破りなリミックスで注目を集め、ポップスのプロデューサーBenny Blancoに招かれてロサンゼルスへ移ります。17 批評は「Mirror Maru」を「後に有名になる美学を一作で形にした」と振り返り、「彼の曲には大きなドロップがない。むしろ爆発しそうな所で内側に向く」と特徴を書いています。17 この曲はゲーム『グランド・セフト・オートV』のゲーム内ラジオの曲目にも入っています。18,17

Cashmere Cat『Mirror Maru』(公式の音源)

2-3Flume『Skin』(2016年)と「Never Be Like You」

2016年2月、カナダの歌手Kaiを迎えた「Never Be Like You」がオーストラリアで1位になり、Flumeにとって初めてのチャート1位の曲になりました。11 続くアルバム『Skin』は2017年のグラミー賞で最優秀ダンス/エレクトロニック・アルバム賞を受賞しています。11,19

「Never Be Like You」は同じグラミー賞で最優秀ダンス・レコーディング部門の候補にもなり、アメリカのチャートでトップ20に入りました。11,19 2017年1月には、オーストラリアの公共ラジオTriple Jのリスナー投票「Hottest 100 of 2016」で1位になり、投票数は220万票で、それまでで最多でした。11 音楽ブログの書き手は、この曲を「多くの人はジャンルの名前など気にしていないだろうが」と前置きしてフューチャーベースの例に挙げています。8 本人はレコーディング・アカデミーの公式ページで「とてもユニークな質感と音を作ることが、自分が音楽で愛していること」と語っています。19

Flume『Never Be Like You』

2-4Wave Racer「Rock U Tonite」(2013年)

シドニーのTom Purcell(Wave Racer、1992年生まれ)の最初のシングルは、「Rock U Tonite」と「Stoopid」の2曲入りで2013年に出ました。20

2013年にはTriple JのJアワードの候補になり、2015年にはシドニーの音楽・芸術・文化賞FBi SMACを受賞しています。20 表題曲「Flash Drive」は2016年のレースゲームの公式サウンドトラックに収められました。20 日本の音楽メディアは、2013年ごろからWave Racer、Lido、Flumeといった作り手を筆頭に大きな流行になった、と書いています。21 右は所属レーベルの公式チャンネルの動画です。

Wave Racer - Rock U Tonite [Official Video]

2-5Mura Masa「Lovesick」(2016年)

ガーンジー島で生まれ育ったAlex Crossan(Mura Masa、1996年生まれ)。「Lovesick」は2016年9月30日に、アメリカのラッパーA$AP Rockyを迎えて出た曲で、2015年のシングル「Lovesick Fuck」の新しい版です。22

2017年のセルフタイトルのアルバム『Mura Masa』は、2014年から2016年にかけて本人が制作・録音しました。23 批評家ポール・シンプソンは「ベースミュージック、トラップ、ハウスなど、さまざまな『フューチャー』のスタイルの混合で、明るく日の当たる島のような音色と、恋に病んだ憂いの主題を組み合わせることが多い」と評しています。23 本人は、この音は「何より地理的な孤立から来ている」と語っています。23 第60回グラミー賞の候補になり、翌年の第61回で受賞しています。22 音楽ブログは、Mura Masa、Marshmello、San Holo、Louis the Childを、2015〜16年に台頭した「第二の波」と呼んでいます。8

Mura Masa『Lovesick』(公式の音源)

2-6Snail's House『Kirara』(2015年):日本で生まれた枝

東京の氏家慶太郎は2012年からUjico*の名で活動し、2014年8月30日の「Nyan Nyan Angel!」で「かわいい」音楽のための別名義Snail's Houseを始めました。24 2015年5月13日に出たEP『Kirara』は、百科事典や複数の解説が「カワイイ・フューチャーベース」の始まりとして挙げる作品です。25,1,4,3,13

Ujico*という名は、友人に付けられた子どもの頃のあだ名です。24 若い音楽家のための東京のレーベル、Youth Composer Associationから作品を出していました。24 『Kirara』は7曲入りで、「Nyan Nyan Angel!」も収められ、レーベルTREKKIE TRAX(第04章)から出ています。25 2015年半ばに出た最初の2枚のEPには、音程を高く上げたボーカルチョップと鮮やかなシンセが入っていた、と百科事典は書いています。24 2017年10月10日に公開された「Pixel Galaxy」のミュージックビデオは急速に広がり、YouTubeで1億回を超えて再生されています。24 2026年の音楽誌は、彼を「Kawaii Future Bassの提唱者であり、第一人者として地位を築いたアーティスト」と紹介し、幼い頃からジャズやファンクに触れ、中学生で作曲に傾いたと書いています。26

Snail's House『Kirara』(公式の音源(EPの表題曲))

2-7ほかに名前が挙がる人と曲

音楽史家は、商業的なブームの始まりを2014年から2016年の一連のヒットとしてまとめています。9

  • 2014年:Lido「I Love You」、Ujico(氏家慶太郎)「Nyan Nyan Angel」。9 RL Grimeのアルバム『Void』もこの年で、解説は彼を先駆者の一人に数えています。4
  • 2015年:Mura Masa「Lovesick」、シカゴのデュオLouis the Child「It's Strange」、Major LazerとDJ Snake「Lean On」。9 音楽ブログは、Mura Masaのアルバム『Soundtrack To A Death』(2015年)の「Lotus Eater」を個人的な基準点に挙げています。8
  • 2016年:Martin GarrixとBebe Rexha「In the Name of Love」、オランダのSan Holo「Light」、Marshmello「Alone」とアルバム『Joytime』、The Chainsmokers「Closer」。9,4 シンセメーカーの解説は「Light」を、EDMの巨大なスーパーソウの演出をフューチャーベースの枠に当てはめた曲と書いています。6
  • 2017年以降:Louis the Child「Love is Alive」(2017年)は、ドラムをさらに間引いてメロディを重ねた例として挙げられています。6 シカゴのDJ、Illenium(Nicholas D. Miller)は、The ChainsmokersやFlumeの曲のリミックスで自分のヒットを作りました。3,13

右はSan Holo「Light」(2016年)の公式の動画です。音楽史家は、FlumeとODESZAの新しいヒットも含めて、この時期の曲が「どんどんポップに(そしてキッチュに)」なっていった、と書いています。9 音楽ブログは、2015〜16年にかけて歌の入った曲が急に増え、ポップスやヒップホップの有名な歌い手が参加するようになったことを、成功の主な理由の一つと見ています。8

San Holo - Light (Official Video)

音の作り方ハーフタイム、和音、うねるシンセ、声、OTT

この章の読み方

ここに書くのは、資料(制作の解説記事、シンセや音色集のメーカーの記事、百科事典)に書かれている「作り方」です。個々の曲の譜面や音を私が聴いて確かめたものではありません。数値が出ている所は、その資料がその目安を書いている所で、正解ではなく出発点です。

3-1リズム:速いテンポを、半分の速さで感じさせる

テンポは資料により130〜160BPMとも70〜90BPMとも書かれます。矛盾ではなく、スネアを「3拍目にだけ」置くことで、倍の速さの曲が半分の速さに聞こえる「ハーフタイム」の数え方の違いです。6,27,28,7

同じビートを2つの速さで数えたもの。資料の数値の違いを説明する図で、特定の曲のテンポではありません。6,28,7

シンセメーカーの解説は「ダブステップやトラップと同じく、3拍目ごとにスネアを置いてハーフタイムの感じを出し、細かく鳴るクローズドのハイハットを足す」と書いています。6 作曲ソフトの解説は「キックとスネアはハーフタイムで鳴らす。そうしないと145BPMは速すぎて聞こえる」と説明します。27 音色集のメーカーは「140〜160BPMの間に住み、150が心地よい。ドラムは半分の速さで鳴るので75に感じる。遅いドラムと速い和音の刻みの間の張り合いが、はねの多くを生む」と書いています。28

日本語の制作記事(2018年)は、テンポを「概ね70〜90未満」とし、スネアは2拍4拍のシンプルな構成、キックはダブステップをより複雑にしたような配置で裏の拍を多用する、と整理しています。7 実際の打ち込みでは、キックを16分音符の裏に意識的に置いて「16分の細かいニュアンス」を出し、クラップをハイハット代わりに16分で刻んで裏拍の強さを弱めて「隠し味程度」に留めています。7 サビの手前のフィルでは、音程の高いスネアを選んで後半に32分音符の連打を入れ、サビでは音程の低いキックに替えて「ずっしりとしたイメージ」を出す、という作り方です。7

ドラムの音選びについて、同じ記事は「派手なものより、ある程度シンセやベースを目立たせられるシンプルなもの」が良く、ドラムマシンで言えばTR-909系の音に近いものがよく使われる、と書いています。スネアにはカウベルのような音色を混ぜたり、リバーブを効かせる作り方も多く、909系のキットに707系のカウベルを使う例を示しています。7 英語の解説は、808や909の音を使ってもよいが、歪みのない「きれいでパキッとした」クラップ、スネア、指鳴らしでもよく、水滴、クリック、タップのような録音した変わった音も使われる、と書いています。6 ハイハットには、小節のつなぎ目でトラップ由来の速いロールを入れます。29,27

3-2構成:静かな「メロ」と、和音がさく裂する「サビ(ドロップ)」

曲は大きく2つの部分の繰り返しで、「サビ」に当たる部分でベースとバッキングのシンセが特徴的に使われる。これがフューチャーベースを特徴づける要点だ、と日本語の制作記事は書いています。7

EDMの基本の形。日本語の解説記事とジャンル事典の記述を順に並べたものです。5,29

日本語の解説記事は、EDMの基本構造「イントロ、ビルドアップ、ドロップ、ブレイクダウン、ドロップ」に従い、ビルドアップで歌やメロディが流れ、ドロップでシンセの和音が一気にさく裂する「静と動」の対比が肝だと書いています。5 音楽ブログは、曲の部分の長さは4小節が典型だと書いています。8 移り目には、短いものと長いもののライザーや衝撃音を使い、要らない高音と低音をイコライザーで削ります。6 同じ解説は「どこかで何度も聴いた効果音の一発音だと、気分が冷める」とも書いています。6

Perfumeの作品を分析した音楽メディアは、EDMのドロップでは「しばしば大胆に音数が減らされ、個々のサウンド自体の強度が盛り上がりを生む」のに対し、J-POPでいちばん盛り上がるサビは「たいてい平歌よりも音数が増えリッチになる」ため、両者はすれ違ってきた、と整理しています。12 日本の曲に取り入れる時の壁がここにある、という指摘です(第04章)。

3-3和音:7度と9度を足し、時に3度を抜く

「3つの音の和音(トライアド)は合わない。音が足りず、音域も狭い」と作曲ソフトの解説は書き、メジャーセブンスとマイナーセブンスを多く使うことを勧めています。27 音色集のメーカーは「ふつうの長三和音を入れてもデモにしか聞こえない。7度と9度を積むと、同じ音色が急にレコードに聞こえる」と書いています。28

①は音色集のメーカーが「150BPMのハーフタイムのドラムに乗せれば、ジャンルの半分はこの1つの進行」と書く例。28 ②は日本語の制作記事が挙げるハイブリッドコードの例で、ルートに対して3度が無いため明るさや暗さが曖昧になり、独特の浮遊感が得られる、と説明されています。30 コード名だけを示し、音の高さは描いていません。

日本語の制作記事(2018年)は、進行の傾向を「テンションノートを取り入れた比較的複雑な響きを持つコード」とまとめ、3つの実例を解説しています。Ⅰmaj/Ⅳから始まる例では、ルートⅣの上にⅠのパワーコードが積み重なり、「Ⅰmaj/Ⅳの省略形ともⅣadd9の省略形とも取れる曖昧な響き」になる。曲全体で3度を省いたコードを使うことで「独特の無機質感」を演出している、という読みです。30 別の例では、最初の3つのコードで保続音Gを使い、「ドミナント7の緊張感を避けるためⅤ7ではなくⅤ6を用いる楽曲は多い」と指摘しています。30 すべてを複雑にする必要はなく、ポップで分かりやすい響きのためにトライアドのメジャーやマイナーも使われる、とも書いています。30

音色集のメーカーの目安は「1つの和音に4〜5音、約2オクターブに広げ、9度をいちばん下に置かない」。そして「和音のいちばん低い音をC2以上に保ち、その下は専用のサブベースに渡す」。和音が濁る原因は「ほとんどの場合イコライザーでなく声部の配置で、C3より下に音を詰め込みすぎてサブと取り合っている」と書いています。28 制作記事は定番の進行としてI-IV-V-viを挙げています。31 カワイイ・フューチャーベースでは、メジャーやリディアンの明るい調と、maj7、add9、sus2、sus4の積み方が好まれる、とジャンル事典は書いています。29

長調か、短調か

資料の見方は割れています。作曲ソフトの解説は「長調が完璧。トラップより幸せに聞こえるので、短調より長調」27、音楽ブログも「主に長調で、トラップよりずっと幸せに聞こえる」と書きます。8 一方、楽曲販売サイトは「レーベル向けの曲はたいてい短調で、FマイナーとGマイナーがいちばん多い。長調は少ないが、明るい感じのために使える」と書いています。32 どちらもあり得る、と読むのが安全です。

3-4和音のシンセ:重ねたノコギリ波を、揺らして、へこませる

ドロップの「うねる巨大な和音」は、1つの音色で出るものではなく、音を層にして、フィルターと音量を周期的に動かし、さらに圧縮して作る、と複数の解説が書いています。28,33,1,6

土台は「スーパーソウ」です。シンセメーカーの解説は「わずかに音程をずらした複数のノコギリ波を重ねた音色」と定義し、自社シンセでノコギリ波とノイズの発振器を5つ重ね、2つのLFOで音程を揺らし、コーラスをかけ、さらにDAWのフィルターを自動で動かして「本気の動き」を出した、と制作の例を書いています。6 音色集のメーカーは、数値を添えて次のように説明します。「ノコギリ波1本では蜂のよう。わずかに音程のずれた7本が重なるとフューチャーベースの音になる」。28

音色集のメーカー(Monosounds)が自社の作り方として書いている層と数値。1つの資料の目安で、ほかの作り手が同じとは限りません。28

次に「動き」です。百科事典は、LFOやオートメーションでフィルターの開き具合や音量を動かして「うねり」を作ると書いています。1 音色集のメーカーの例では、24dB/octのアナログ型ローパスフィルターを約800Hzに置き、サイン波のLFOをテンポに同期して2分音符の周期で当て、約8kHzまで開いて戻す。「150BPMなら2拍で1回の開閉で、ダブステップではなく呼吸に感じる速さ」です。28 日本語の制作記事(2019年)は、考え方を「MIDIノートはシンプルに。ボリューム/フィルターでリズムの動きをつける」とまとめ、Xfer RecordsのLFO Toolで音量とフィルターを周期的に動かす方法を解説しています。読者の質問への答えとして「LFO Toolはボリュームを周期的に上げ下げしているだけなので、ミキサーのボリュームのオートメーションを描けば同じ効果が得られる。利点は8分音符や16分音符などLFOの速さを途中で変えるのが手早いこと」と書いています。33 DAWメーカーの解説は、Massiveの「パフォーマー」3つに別々の拍の周期を持たせてフィルターを動かし、マクロで切り替えて1つの和音の中にリズムの変化を作る方法を示しています。34

最後に「へこみ」です。和音が拍ごとに沈む「ポンピング」は、ふつうキックを基準にしたサイドチェインの圧縮で作ります。7,3 サイドチェインとは、ある音の信号が別の音の効果(多くは圧縮)を動かす仕組みで、簡単に言えば一方の音がもう一方の音量を自動で下げます。3 音色集のメーカーは、音色の中にLFOで「頭で急に落ち、周期の間に戻る」形を描いて4分音符の周期でマスターの音量に当て、60〜80%の深さでへこませる方法も書いています。「LFOは音ごとに始まるのではなく、曲のクロックに従わせる。そうしないと拍の外のノートが拍と争う」。28

資料に名前の出るシンセは、Serum、Massive(ウェーブテーブル方式)27、Serum 228、Circle²(シンセメーカーFAWの自社シンセ)6、Sylenth1、Massive X29、Spire33です。日本語の制作記事はNative InstrumentsのRazorを使っています。これは複数のサイン波を「足し合わせる」アディティブ方式のシンセで、倍音を削って作る従来の方式より「自由で複雑な倍音を持ったサウンドメイキングが可能」だと説明されています。35

3-5ベース:サブと「上のベース」の2層

ベースはサブベースと、少しきつい音の「上のベース」の2層で作る、と作曲ソフトの解説と音楽ブログがそろって書いています。27,8

作曲ソフトの解説では、ベースは長い音を鳴らし、和音の楽器は短くリズミカルに刻む、という役割分担です。27 シンセメーカーの材料の一覧には、トラップ由来の808のサブベースが挙がっています。6 日本語の制作記事は、Razorの初期状態からベースを作る手順を解説し、プリセットの保存の大切さまで書いています。35 音色集のメーカーは、和音のトラックで約100Hz以下を切り、低音はサブに任せる、と書いています。28

3-6声を楽器にする:ボーカルチョップ

歌を切り刻んで楽器のように使う「ボーカルチョップ」は、フューチャーベースの印だ、とシンセメーカーの解説は書いています。6

作り方の例として、素材集の一発録りの声をいくつか取り、切り刻んでサンプラーに入れて鍵盤で弾けるようにし、音程が次の音へ滑るグライドをかけて、和音の上でメロディを「即興で弾く」、と書かれています。6 日本語の解説は「『ア』『エ』『オ』といった母音の断片が、シンセサイザーのように旋律を奏でる」と表現しています。5 イントロでは残響とフィルターをかけて環境音のようにし、ドロップの直前に元の歌を丸ごと使って勢いをつける、という配置の例もあります。6 音色集のメーカーは「和音の根音をたどる音程付きのボーカルチョップが、シンセだけのドロップを完成品に聞こえさせる一番の近道」と書いています。28 カワイイ・フューチャーベースでは、ボーカロイドや「歌い手」の高い声の音節を切り、きっちり音程を合わせ、フォルマント(声の質)をずらして個性を出す、とジャンル事典にあります。29

講座の掲示板に残った声

制作講座の掲示板には、こんな声が残っています。「ドロップで使っているリード音の音色の作り方が見たかった。あの音はこのスタイルにとって本質的なのに、プリセットを置いただけで説明がない」。36 和音の音色こそがこのジャンルの核だと、学ぶ側も感じている、という記録です。

3-7ミックス:OTTという「上と下から同時に押す」圧縮

Flume風のドロップの「つぶれて、やたら明るい」音は、小さい音を持ち上げながら大きい音をつぶす、帯域ごとの圧縮で、ふつうの答えはOTTというプラグインだ、と音色集のメーカーは書いています。28

OTTは、Serumを作ったXfer Recordsの無料のプラグインで、名前は「Over the Top(やりすぎ)」から来ています。下向きの圧縮(大きい所を抑える)と上向きの圧縮(小さい所を持ち上げる)を同時に行うマルチバンド・コンプレッサーで、低・中・高の3つの帯域を別々に調整でき、処理した音と元の音を混ぜる深さ(Depth)も選べます。37 制作講座の解説は「ダイナミックレンジがどんどん狭くなり、音量を戻すと音が巨大に感じる」と仕組みを説明し、「やりすぎに注意。自分も効かせすぎてよく戻す。深さ30%あたりから始めると、多くの人が思うより低い所に落としどころがある」と書いています。38 音色集のメーカーは、持続する和音で6〜10dBの圧縮がかかる所まで下げ、混ぜる量は「100%ではヘッドホンできつい、60%なら攻めは残り動きも生きる」としています。28

カワイイ・フューチャーベースの目安として、ジャンル事典は「和音とベースに強いサイドチェイン、温かさのための軽いサチュレーション、明るいが滑らかな高音(4〜8kHzのきつさを抑える)、和音とリードにステレオの広がり、ドラムは中央で硬く」と書いています。29

広がりと今チャートの頂点、日本の枝、そしてポップスの標準語へ

4-0流れを先に見る

広がりの主な出来事を順に並べたもの。1,11,6,25,39,12,40

4-12016年:チャートの頂点に立つ

The ChainsmokersがHalseyを迎えた「Closer」は2016年に12週にわたってアメリカのチャートの1位にとどまり、「ジャンルがポップスへ渡れる可能性を証明した」とシンセメーカーの解説は書いています。6

この曲の共作者には、Louis the ChildのFrederic Kennettが入っています。6 2012年に組んだこのニューヨークのデュオは、「Roses」(2015年)、「Closer」(2016年)、「Something Just Like This」(2017年、Coldplayと)と大きなヒットを続け、Flumeの最初のヒットを超える商業的な成功を収めた、と複数の解説にあります。4,3,13 百科事典は2016年を「ブレイクした年」とし、2010年代の半ばにイギリス、アメリカ、日本、中国、韓国、オーストラリアで人気になったと書いています。1 音楽ブログは、歌の入った曲が増え、ポップスやヒップホップの有名な歌い手が参加したことを成功の主な理由と見ています。8

The Chainsmokers『Closer』

4-2日本の土壌:ネットレーベルと、未成年のレーベル

日本でこのジャンルが独自に育った土壌は、SoundCloudとネットレーベルの文化でした。29,41

ジャンル事典は、カワイイ・フューチャーベースが2010年代半ばの日本で、ネットレーベルやDIYの場の作り手が、フューチャーベースのふくらむ和音とハーフタイムのドラムに、J-POP、アニメの音楽、チップチューン、ゲーム音楽のメロディと美学を混ぜて生まれた、と書き、Maltine Recordsとそのまわりのネット上の共同体を「音を育てた場」として挙げています。29

もう一つの場がTREKKIE TRAXです。2012年5月に設立された東京のレーベルで、きっかけは秋葉原のクラブの閉店でした。そこで開かれていた10代限定のパーティー「U-20」が無くなることに危機感を覚えたandrewらが、当時流行の兆しを見せていたネットレーベルを「軽い気持ちで」立ち上げた、とラジオ局の記事は伝えています。41,42 結成当時、1人を除いてメンバー全員が未成年で、SoundCloudでも未成年の作り手を探して声をかけた。「未成年が真面目にダンス・ミュージックをやる」ことがレーベルの根本になった、という説明です。41 最初は歌舞伎町のMaltineのパーティーで、主宰のtomadの厚意により「24時までなら」とCDに焼いたデモを配った、とメンバーは語っています。43,41 Maltineを運営の参考にしつつ、そこで流行っていたアニメソングのリミックスには手を出さず、「正当なダンス・ミュージック」の路線を選びました。41

このレーベルから、Snail's Houseの『Kirara』が出ました。25 兄弟ユニットSeimei & TaimeiやCarpainterを筆頭に、フューチャーベース、ダブステップ、UKガラージ、トラップのベースミュージックを多く出し、SkrillexやDiploといった海外のDJから支持を受け、2015年のULTRA JAPANにも出演しました。43,41,42 最初のベスト盤『TREKKIE TRAX THE BEST 2012–2015』は、アメリカの音楽メディアPitchforkで7.4点を得ています。44,42 設立から13年で200タイトル以上、約1000曲を出し、所属のCarpainterが共同プロデュースした三浦大知「EXCITE」は第59回日本レコード大賞の優秀作品賞を受賞、Masayoshi IimoriはOfficial髭男dism「可能性」を手がけています。42

4-3カワイイ・フューチャーベースとは何か

百科事典は「幸せでかわいい音色と、日本のポップカルチャーの強い影響で知られる、フューチャーベースの下位ジャンル」と定義し、チップチューンの音、柔らかい矩形波、アニメやゲームからの音の引用、打楽器、ドアやベッドのきしむ音がよく取り込まれる、と書いています。1

2つの違い。百科事典とジャンル事典の記述を箱にしたものです。1,29

ジャンル事典は、音の材料として「明るいスーパーソウの積み重ね、ベルやマレットのプラック、ボーカロイドやJ-POPや歌い手から取った高い声のチョップ、長調やリディアンの甘いメロディ」を挙げ、ドラムは3拍目にスネアのハーフタイムのトラップのノリで、強いサイドチェインが「浮く、はねる」感じを作る、と書いています。29 百科事典は、この下位ジャンルの様式の源として、フューチャーベース、チップチューン、電波ソング、アキシブ系を挙げています。1

日本の音楽メディア(2017年)は、日本で流行した背景を「ピッチをあげたボーカルや次々とエモーショナルに展開していく楽曲構造が、いわゆる“電波ソング”や声色の高いアニメのセリフなどと親和性が高く、ブートレグ的にアニメの要素を取り入れたプロデューサーが続出した」と説明しています。21 音楽ブログは2016年に投稿されたMihka! × Kyoto Black「Kodokushi(孤独死)」を、この下位ジャンルを定義づけた曲の一つとして挙げ、「アニメとゲームの文化に深く根ざした、チップチューン主導のフューチャーベースに、たくさんの(本当にたくさんの)かわいいアニメの声と美学をまぶしたもの」と表現しています。8

右は、Snail's Houseの「Pixel Galaxy」の公式のミュージックビデオです。2017年10月10日に公開され、急速に広がって作者のフォロワーを大きく増やし、今では1億回を超えて再生されています。配信サービスでの再生数はこれよりかなり少ない、と百科事典は添えています。24

Snail's House - Pixel Galaxy (Official MV)

4-4Yunomiと未来茶レコード:J-POPとの境目へ

札幌出身のDJ・トラックメイカーYunomiは、歌手nicamoqを迎えた最初のフルアルバム『ゆのもきゅ』(2017年)で、ベースミュージックの音色を踏襲しつつ、00年代以降のアニメソングや電波系の系譜にもつながる「Kawaii Future Bass」の型を示した、と音楽メディアは書いています。39,21

このアルバムは、Yunomiがトラックメイカー兼歌手のYUC'eと立ち上げたレーベル「未来茶レコード」からの1枚で、iTunesのエレクトロニックチャートで1位を取りました。39,21 評論家の柴那典は、特に「インドア系ならトラックメイカー」を挙げ、「脱力したフレーズには一度聴くと耳から離れなくなる中毒性がある」と書き、ミュージックビデオには増田セバスチャンらが開拓した2010年代のカラフルなジャパニーズ・ポップカルチャーのセンスを感じる、と評しています。39 同時に出たYUC'e「Future Cake」は、Spotifyの日本バイラルチャートで10日連続1位でした。21 Yunomiの音は「フューチャーベースやトラップのシンセやビートを主に使った音圧の高いダンスミュージックに加え、独特な和のエッセンスを感じさせるメランコリーな音色」で、アイコンやアートワークはイラストレーターのきあとがほぼ手がけ、曲の世界観がアニメソングのように伝わる、と同じメディアは分析しています。21 右は公式の音源です。

インドア系ならトラックメイカー(Yunomi・公式の音源)

4-5Perfume「If you wanna」:J-POPの「サビ」をドロップに

2017年8月のPerfumeのシングル「If you wanna」は、EDM、特にフューチャーベースを大胆に取り入れて話題になり、2018年のアルバム『Future Pop』はオリコンの週間アルバムランキングで初登場1位を取りました。12,21

音楽メディアの分析は、この曲の大胆さは「サウンドの特徴よりも、曲の構成に関わる」と書いています。PerfumeはそれまでサウンドではEDMを取り入れつつ、ビルドアップからドロップへというEDMの構成はほとんど採らなかった。J-POPでいちばん盛り上がるサビは音数が増えてリッチになるのに対し、EDMのドロップでは音数が大胆に減らされて個々の音の強度で盛り上がりを作るため、両者はすれ違ってきた、という整理です。12 同じ記事は、中田ヤスタカのサウンドを「時代の潮流を巧みに取り入れつつもJ-POPとしての親しみやすさを維持するバランス感覚」と評しています。12 2017年の記事は、ほかにw-inds.の橘慶太「Time Has Gone」、DEAN FUJIOKA「Let it snow!」を、J-POPがフューチャーベースの要素を取り入れた例として挙げています。21

[Official Music Video] Perfume 「If you wanna」

4-6K-POP:SEVENTEEN「THANKS」

K-POPでも、フューチャーベースはジャンル名として曲の紹介に使われました。SEVENTEENのスペシャルアルバム『DIRECTOR'S CUT』のタイトル曲「THANKS」は、「清涼感あふれるギターサウンドベースのフューチャーベースジャンルの楽曲」と紹介されています。40

記事は、過去に一緒に時間を過ごし良い思い出を作ってくれた相手への感謝を詰め込んだ内容だと歌詞を紹介し、「Adore U」で始まったグループの物語がこの曲で一段落すると書いています。40 ジャンル事典は、2010年代の終わりにプレイリストとクリエイターの文化がこの様式を海外へ運び、K-POP、アニメに近いポップス、ハイパーポップの初期の流れが、きらめくリード、かわいいボーカルチョップ、最大限に積んだ和音といった要素を吸収した、と書いています。29

[M/V] SEVENTEEN - THANKS

4-7ゲーム、キャラクター、VTuberの音楽へ

フューチャーベースの音は、ゲームの中のラジオやサウンドトラック、キャラクターの楽曲、VTuberのカバーへと入っていきました。18,20,45

  • ゲーム:Cashmere Cat「Mirror Maru」は『グランド・セフト・オートV』のゲーム内ラジオの曲目に、Wave Racer「Flash Drive」は2016年のレースゲームの公式サウンドトラックに入っています。18,20 解説記事は、ジャンルがポップス、EDM、ゲームのサウンドトラック、ソーシャルメディアの流行に影響を与えた、とまとめています。3
  • キャラクターの楽曲:ダンスミュージックを主題にしたキャラクタープロジェクト「電音部」の楽曲には、Snail's House、Moe Shop、YUC'e、Yunomi、KOTONOHOUSE、PSYQUIらが参加している、と個人のブログは紹介しています。45 別のブログは、ゲーム『アイドルマスターSideM』のキャラクター天峰秀のソロ曲「GO NEXT」(2022年)をカワイイ・フューチャーベースの曲として取り上げ、YouTubeでこのジャンル名を検索すると二次元の女の子のサムネイルが並ぶ、と書いています。46
  • VTuber:アニメソングをVTuberがカバーした編集盤では、Yunomi、YUC'e、Moe ShopといったKawaii Future Bassを多く作るトラックメイカーが編曲を担当した、と同じブログにあります。45
出典の重さについて

この節の「電音部」とVTuberの話は、個人のブログの記述です。参加した作り手の名前が公式の情報と合うかは、使う時に公式サイトで確かめてください。ゲームの収録曲の2件は百科事典の記述です。

4-8その後:名前は薄れ、作り方は残る

2019年、FlumeはSophie、JPEGMafia、Slowthaiらと組んだ17曲のミックステープ『Hi This Is Flume』を出し、翌年のグラミー賞で同じ部門の2度目の候補になりました。11 百科事典の彼のジャンル欄には、フューチャーベースと並んで「実験的」「ハイパーポップ」が書かれています。11

このミックステープは2019年3月19日に発表され、翌日にYouTubeの生配信で初公開されました。批評は良く、アメリカのダンス/エレクトロニック・アルバムのチャートで9位、総合のアルバムチャートで185位でした。11 3作目のアルバム『Palaces』は2022年5月に出ています。11

ジャンル事典は、カワイイ・フューチャーベースの要素が「ハイパーポップの初期の流れ」に吸収されたと書き、別の項目では「フューチャー・コア」という速いハードダンスの一派が、日本の同人・J-coreの共同体から生まれ、フューチャーベースの和音の積み方を混ぜることが多い、と書いています。29,47 楽曲販売サイトの解説は、フューチャーベースとメロディック・ダブステップの違いを、明るく踊れる方向と、感情のビルドと重いベースの方向、と整理しています。2 2026年の解説は「ドロップ、ボーカルチョップ、独自の構成を試せる多用途さが、ジャンルを2026年以降も現役にしている」と書き、2026年の日本の音楽誌はSnail's Houseの新曲「SUNNY」を紹介しています。2,26 一方で音楽ブログは、2020年の時点で「フューチャーベースは自分にとって比較的知られていないジャンル」と書き始めており、聴き手の多くがジャンル名を気にしていなかったことも記録しています。8

出典

  1. Future bass(英語版ウィキペディア) 百科事典(定義・先駆者・2016年・特徴・カワイイ・フューチャーベース)
  2. Everything you need to know about Future Bass(House of Tracks) 楽曲販売サイトの解説(近いジャンルとの違い)
  3. What Is Future Bass(Pond5 Blog) 素材販売サイトの解説
  4. What is Future bass? Genre explained(Soundtaxi) 音楽ライセンス会社のジャンル解説
  5. 【音楽ジャンル】フューチャーベースとは?特徴・歴史・おすすめ曲を徹底解説(note・soundwitches) 個人の解説記事(ブログ)
  6. Genre DNA: Future Bass(Future Audio Workshop) シンセメーカーの制作解説(材料の一覧・主なヒット曲)
  7. Future Bassの作り方 1. ジャンル概要とドラムトラックの作成(Sleepfreaks・角出拓生) 制作の解説記事(2018年)
  8. Future Bass - Genre History, Artists and What It Actually Stands For(Stereofox) 音楽ブログの解説(2020年)
  9. A History of Future Bass Music: From Wonky to Future Bass(Piero Scaruffi) 音楽史家による年表つきの歴史
  10. Glass Swords(英語版ウィキペディア) 百科事典(制作・発売・評価)
  11. Flume (musician)(英語版ウィキペディア) 百科事典(経歴・受賞)
  12. Perfume、最新作『Future Pop』で示した“未来のポップ”(Real Sound・imdkm) 音楽メディアの分析記事(2018年)
  13. Future Bass Guide: 4 Characteristics of Future Bass Music(MasterClass) 講座サイトの解説
  14. Dubstep(英語版ウィキペディア) 百科事典(パープルサウンドの節)
  15. SoundCloud and Bandcamp as Alternative Music Platforms(Hesmondhalgh ほか・Social Media + Society 2019・White Rose Research Online) 研究論文
  16. First future bass song: The origins explained(House of Tracks) 楽曲販売サイトの解説
  17. Cashmere Cat: Wedding Bells EP Review(MusicCritic) 批評のまとめ(Mirror Maru と経歴)
  18. Music of Grand Theft Auto V(英語版ウィキペディア) 百科事典(ゲーム内ラジオの収録曲)
  19. Flume: Grammy Awards and Nominations(GRAMMY.com) レコーディング・アカデミーの公式ページ
  20. Wave Racer(英語版ウィキペディア) 百科事典
  21. Yunomi、KiWi、Kai Takahashi……次世代のポップシーンを牽引するプロデューサーたち(Real Sound) 音楽メディアの記事(2017年)
  22. Mura Masa(英語版ウィキペディア) 百科事典(経歴・Lovesick・グラミー賞)
  23. Mura Masa (album)(英語版ウィキペディア) 百科事典(アルバムの制作)
  24. Snail's House(英語版ウィキペディア) 百科事典(経歴・Pixel Galaxy)
  25. Kirara(Snailpedia・Snail's House のファン運営の事典) ファン運営の事典(発売日・曲目・レーベル)
  26. Snail's Houseが鳴らす、爽やかなサマーアンセム(BIG UP!zine) 配信サービスの音楽誌(2026年の新曲の紹介)
  27. Future Bass tutorial (chords and melodies)(FeelYourSound) 作曲ソフトのメーカーの解説
  28. Future Bass Serum 2 Tutorial: Chords Step by Step(Monosounds) 音色集のメーカーの制作解説(数値つき)
  29. Kawaii Future Bass(Melodigging) ジャンル事典(成立・作り方の目安)
  30. Future Bassの作り方 4. Razorを使用したバッキングトラックとコード進行(Sleepfreaks・角出拓生) 制作の解説記事(2018年)
  31. Future Bass Chord Progressions: How To Make Exciting Beats(Unison Audio) 制作の解説記事(2024年)
  32. Where did future bass start?(House of Tracks) 楽曲販売サイトの解説(調とテンポの目安)
  33. Xfer Records LFO Tool の使い方 コードバッキングにリズムバリエーションを与えるテクニック【Future Bass】(Sleepfreaks) 制作の解説記事(2019年)
  34. How to Make Future Bass Chords From Scratch(SoundBridge) DAW メーカーの制作解説
  35. Future Bassの作り方 2. Razorを使用したベーストラック 前編(Sleepfreaks・角出拓生) 制作の解説記事(2018年)
  36. How To Make - Future Bass with Echo Sound Works(Sonic Academy Forums) 制作講座の紹介と利用者の声
  37. Beyond Dynamics: Elevate Your Sound With OTT Compression(SoundBridge) DAW メーカーの解説(OTT)
  38. The Ultimate Guide to Multiband Compression for Producers(Hyperbits) 制作講座の解説(OTT の使い方)
  39. Okada Takuro、吉田ヨウヘイgroup、Yunomi…日本インディーシーンの充実を示す6枚(Real Sound・柴那典) 音楽メディアのレビュー(2017年)
  40. SEVENTEEN、新曲「THANKS」MV公開…真心を込めた歌詞に注目(Kstyle) K-POP メディアの記事
  41. 世界が注目するDJクルーTREKKIE TRAX(トレッキー・トラックス)のこれまで(block.fm) ラジオ局の記事(結成の経緯)
  42. About(TREKKIE TRAX 公式サイト) レーベルの公式の紹介文
  43. TREKKIE TRAXの勢いは止まらない!(Mikiki by TOWER RECORDS) 音楽誌のインタビュー(2016年)
  44. TREKKIE TRAX(ウィキペディア日本語版) 百科事典
  45. Kawaii Future Bassの沼に足を突っ込む(note・村上麗奈) 個人の記事(ブログ)
  46. 天峰秀ソロ曲から聞き始めるkawaii future bassの世界(note・かわいるか) 個人の記事(ブログ)
  47. Future Core(Melodigging) ジャンル事典

この資料の作り方:AI(NotebookLM)の深い調べもので集めた記事・論文・公式の情報を人が読み、資料に書いてある事だけを出典番号つきで書きました。音の良し悪しの判断は書いていません。ラジオの音声は同じ資料から AI が作った物です。2026-11-02 作成・Bills House。

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